2014W杯で各国メディカルスタッフが取り組んでいたことのまとめ。

オンラインアンケート

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2014年W杯からもうすぐ一年が経とうとしていますが、当時の各国代表チームのコンディショニング、怪我の予防のためのアプローチについてなされた調査結果を見つけましたので、ご紹介します。

各国メディカルスタッフ向けに質問形式でなされたものですので、各スタッフが大会期間中に何を考えていたか、その一端を知ることが出来るんじゃないかと思います。

ちなみに原文はオープンアクセスでゲットできますので、原文で読んでみたい方はそちらへ。

英文読むとかめんどくさいやん、という方のためにサラッと(でもないですが)結果をまとめてみました。

 

<<この調査で知りたかったこと>>

この調査でフォーカスされているのは、各国代表のメディカルスタッフが、怪我の予防のためにどのように取り組んでいるのか、そしてそのためには何が重要と考えているか、という点です。

 

<<どうやって調べたの?>>

この調査を行ったのはイギリスのエディンバラ・ネピア大学の研究チーム。

また、FIFAの医学委員でW杯の傷害調査に関わっている方も研究に参加されていました。

調査方法は2014W杯ブラジル大会に参加した32か国のメディカルスタッフに対して大会後に行った、オンラインでの質問形式です。

全チームのメディカルスタッフが回答をしています。

 

<<そして、結果は?>>

色々な質問項目について、結果がまとめられています。

【非接触型のケガのリスク要因トップ5】

この項目は、「怪我のリスクとして何が重要と考えているか?」というメディカルスタッフの持つ考えを集計したものです。内的(選手本人に関するもの)と外的(環境に関するもの)要因の2種類をランキング形式にしています。

<内的要因>

  1. 怪我の既往(過去に経験した怪我)
  2. 蓄積された疲労
  3. 筋力のアンバランス
  4. フィジカルコンディション(体調)
  5. バランス・コーディネーション

<外的要因>

  1. 試合間のリカバリー期間の短さ
  2. W杯前のクラブでのトレーニング負荷
  3. W杯期間中のトレーニング負荷/試合の過密日程(同率3位)
  4. 所属クラブでの試合出場数/ピッチコンディション(同率4位)
  5. リカバリー設備

 

【怪我のリスクチェック項目】

「この選手は怪我にリスクがある」と評価するために用いているテスト項目のトップ5です。

  1. 柔軟性
  2. フィジカルコンディション(体調)
  3. 関節の機能・可動性
  4. バランス・固有感覚受容器
  5. 筋持久力評価/最大筋力評価(同率5位)

 

【怪我の予防プログラム】

29チームが怪我の予防のためのプログラムを行い、そのうち28チームが選手個別のプログラムを用いていました。

その選手の個別メニューはW杯キャンプ前に測定を行い、作成しています。

さらに大会期間中の変動するコンディションに対する適応方法として、プログラムを

  1. 運動そのものを変更(76%)
  2. 負荷を減らす(76%)
  3. 頻度を減らす(68%)
  4. 回数とセット数を減らす(64%)

というように調節を行っていたようです。

今回、残念ながら具体的な予防プログラムそのものは記載されていませんでした。

 

トレーニング中・試合中に怪我をするかもしれませんし、選手のコンディションは日々変化します。

大切なのはその変化を見極め、少しずつ適応させていく柔軟性です。

また、これは予防に関わらずどんな運動にも言えるのですが「これだけやっとけば大丈夫」「このやり方は万人に効く」なんてお手軽なものは、高いレベルにおいて通用するものはありません。

高いレベル、というのは競技レベルというよりも「より高い運動・治療効果」と言った方がいいですね。

日常生活の健康やダイエットのための運動でさえ、最高レベルの効果を得ようと思ったら個人に合ったものを適応させなければいけません。

ただ現実問題、代表に限らずサッカーのチームで限られた時間内でそれを完璧に行おうとすると、戦術に割く時間も無くなってしまいますし、そもそもスタッフの数も足りません。

ですから優先順位を決め、上手く妥協点を探して行っているのが各チームの現状だと思います。

 

【怪我の予防に対するコーチのコンプライアンスについて】

ここでいうコンプライアンスとは、怪我の予防プログラムに対して、コーチがそれらのプログラムに応じること、という意味と捉えられます。

コーチの予防プログラムに対する理解なしに怪我を予防することが出来るかという問いに対する、メディカルスタッフの意見をまとめています。

47%のメディカルスタッフがコーチの理解は「必要不可欠」であるとし、53%のメディカルスタッフが「非常に重要である」としています。

与えられた時間をサッカーの戦術的トレーニングにすべて充てることが出来るのが理想ですが、現実はそういうわけにもいきません。

なぜなら、選手たちの多くはすでにひとシーズン戦ってきているからです。

疲労もたまっていて当然なのです。

怪我をせずにプレーするために、予防プログラムに時間を割くことの価値をコーチが理解していることが、重要であると全てのメディカルスタッフが考えているということです。

 

【怪我の予防において直面した問題は何か?】

これはメディカルスタッフが、現場で怪我の予防のために直面した課題についてのランキング結果です。

これが特に苦労した、というメディカルスタッフさんの生の声ですね。

  1. 選手個々に合わせた予防プログラムの最適化
  2. スタッフのコンプライアンスを得ること
  3. 予防プログラム効果が表れるまでの時間の短さ
  4. 移動の頻度
  5. 気候の変化の頻度と順応
  6. 過密日程とリカバリー期間の短さ
  7. 異なったプログラムを用いることについての選手の理解
  8. コーチが自身のケガの予防に対する役割の認識
  9. 敗戦の心理的な影響

一番は個別プログラムの作成ということで、試合があるごとに選手のコンディションは変化していきますから、それらを常に評価し、プログラムを最適化させていくことの難しさは、想像に難くありません。

そして日々変化する予防のために必要なメニュー・時間を踏まえて、全体で戦術の確認を取りたい監督・コーチングスタッフにそれを理解して時間を割いてもらうことは、これもまた簡単には行かないところですね。

 

【今後のスポーツ医科学の発展について】

最後に質問されたのが「今後の代表チームにおける怪我の予防について、スポーツ医科学はどのように貢献していけるか」というものです。

それぞれ、特筆すべきコメントも同時に記載されています。

  1. 予防プログラムの介入方法についての研究
    1. 特に高いサッカーのレベルについて
    2. RCTであること ※RCT=ランダム化比較試験。ある特定の治療の効果を評価するために、その治療を施したグループと比較のための別の治療を施したグループの治療の結果を比較検証する実験。エビデンスレベルで言えば上から2番目に高い。
  2. 怪我のリスク要因を特定するためのテストの発展
    1. 特に高いレベルについて
    2. シンプルで時間のかからないもの
    3. 特別な器具をあまり必要としないもの
  3. 怪我のリスク要因のさらなる特定
    1. サッカーの高いレベルについて
  4. 怪我の予防についての代表チームに対する教育的リソースの提供
    1. セミナーやカンファレンス開催
    2. ウェブやビデオといったソフト面
    3. ワークショップ開催
    4. 代表チーム間の意見交換
  5. 最適なリカバリープログラムの究明
    1. 国際トーナメントで用いることのできるもの
    2. 代表チームで用いることのできる簡便なもの
  6. どうやってコーチや選手のコンプライアンスを最大限得ることが出来るかの調査
    1. 特に監督・コーチ・選手をどのように教育すべきか

 

この文献の考察部分にも書かれていますが、今ある予防プログラムやリスク要因を特定する検査については、科学的なエビデンスが伴っていないものもあり、それについてのさらなる研究結果をメディカルスタッフの人たちは望んでいます。

RCTで欲しい、というコメントが付いてくるあたり、そういった研究の数が不十分であることを示している、とも言えますね。

 

<<まとめ>>

というわけで、今回はとある調査を紹介、そこに自分の意見も少し足してご紹介しました。

調査の原文はこちらからゲットできます。

Injury prevention strategies at the FIFA 2014 World Cup: perceptions and practices of the physicians from the 32 participating national teams

 

 

ここでまとめられた意見は、W杯に参加した、いわゆる各国トップクラスのメディカルスタッフの意見ですから、わたしのように同じ分野で活動している人間にはとても参考になります。

今回の調査で明らかになったもの、例えば怪我のリスクとして重要だと考えられているものや実際のチェック項目、監督・コーチに求めるものについて、自分の考えと重なっている部分と「あ、なるほど」と思う部分があり、また一つ考えるきっかけになりました。

今後何回かの記事で、項目ごとに掘り下げていこうかなと思います。

 

 

 

Yasu


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