【脳震盪】やるべきことはヘディングの禁止より対応の普及

heading dog

photo credit: Star Player via photopin (license)

 

ちょっと前になりますが、米国での10歳以下のサッカーにおけるヘディングが禁止されました。

ヘディングそのものというより、ヘディング動作に伴う頭部同士の衝突による脳震盪を懸念したものです。

脳震盪についてはわかっていないことも多く、スポーツ中の衝突の脳への影響・リスクは依然として存在すると考えられています。

今回のアメリカでの判断の是非をここで断じることはできませんが、いくつかの文献をもとに、私の中で考えていることを書きたいと思います。

 

≪アメリカで認められた10歳以下のヘディング禁止≫

まずは禁止令のおさらいから。

米で禁止令。ヘディングは害悪か?健康被害だけでなく、競技そのものに影響をもたらす可能性も | フットボールチャンネル | サッカー情報満載!

 

こちらの記事にもあるように、脳震盪への理解は日本において、決して十分だといえるほど普及していません。

アメリカに倣う日本が、このアメリカの判断を取り入れる日もそう遠くないかもしれません。

ところでこのアメリカでの件、訴訟内容の詳細までは見つけられなかったのですが、アメリカの児童の保護者団体が起こしたもの。

サッカー協会が脳震盪の発見や治療に対して、十分な行動を起こしていない事が訴訟を起こした理由であると、当時の記事では書かれています。

http://www.timeforkids.com/news/will-soccer-rules-change/170506

The parents say the organizations have done little to detect and treat head injuries even though they know how dangerous they can be.

これを読む限り、予防そのものではなく、その後の対応が不十分だったことが問題なのでしょうか?

だとすれば力を入れるべきは禁止よりも知識と対応策の普及なのではないでしょうか。

 

≪関連性や原因は見つからず≫

Is Heading in Youth Soccer Dangerous Play? – PubMed – NCBI

この文献はサッカーのヘディングと脳震盪や頭部のケガについて、310本の文献を集めて評価したものです。

結論から言えば、ユースサッカーにおけるヘディングと脳震盪や頭部の重篤な障害との明らかな関連性は認められなかった、ということです。

一方で、幼少期はヘディングのテクニックや脳そのものの未成熟な点から、ヘディング動作に関連する脳震盪が大人に比べて起こりやすい、ともされています。

 

≪オランダでは今のところ禁止されず≫

これを受けてオランダでは、現在ヘディング動作を禁止するには至っていません。

その理由は、正しいヘディングの技術が身につかないため、とオランダサッカー協会が判断しているためです。

そもそも空中戦で頭部の接触が起こる理由の一つに、ヘディングという技術が未熟なため、という考えもあり、禁止することは根本的な解決にはならないと考えているのです。

幼少期は禁止していても、結局大きくなってカテゴリが上がれば、ヘディングをすることになります。

体が大きくなればぶつかる力も大きくなります。

その時に正しいヘディングの技術がなければ、頭部の接触のリスクや衝撃の大きさから結局は脳震盪のリスクも高まるのでは、とも考えられます。

 

≪ヘッドギアの効果は?≫

サッカーにおいて、GKではヘッドギアを付けている選手も珍しくなくなりました。

現行のルールでは、ヘッドギアの装着は主審の判断にゆだねられているようです。

ルールを知ろう!|審判|JFA|日本サッカー協会

自分自身や他の競技者の危険となる用具を身につけてはならない(安全の確保)。ただし、スポーツメガネやヘッドギアを主審が安全であると認めれば身につけることができる。

ところがとある研究では、ヘッドギアが脳への衝撃を下げる事にはつながらないのでは、とされています。

ヘディング動作とその衝撃による脳の加速度を評価した研究です。

Sex differences in head acceleration during heading while wearing soccer headgear. – PubMed – NCBI

脳震盪そのものについてはまだわかっていないことが多いのも事実ですが、頭部への衝撃で脳が頭蓋骨内で揺れてしまうことにより、脳震盪に至るとされています。

そう考えると、脳の加速度というのは評価する基準としては有効かもしれません。

すなわち、ヘッドギアを付けていようがいまいが、脳の加速度という衝撃はそんなに防げない、ということになります。

 

≪今すぐできるのは環境を整えること≫

予防策を考える一方で、大事なのが現場での診断。

脳震盪に関わることで最も避けたいとされているのが、【セカンド・インパクト症候群】です。

短期間(1~3週間以内)に2度の脳震盪を経験することは、脳に重篤なダメージを与える危険性が考えられています。

私の帯同するチームのセンターバックも、試合中に接触があり、その後脳震盪の疑いから3週間プレーを中断しました。

このセカンド・インパクトを予防するために大事なのが、初期の現場での判断です。

参考に、こちらの記事もどうぞ。

サッカーと脳震盪 ~知っておくべきその対応~ – フットボールノコトバ。

 

脳震盪の兆候があった場合、さらなる受傷のリスクを避けるために、潔くプレー中断する判断ができるか。

それができる環境を整えることが、禁止することよりも大事なはずです。

試合中にアクシデントが起こったとして、その後のより良い対応のために、2つ必要なことがあります。

1つは、現場の医療知識。

脳震盪の兆候や、その後の対応を知っていること、それが大前提です。

トレーナーはもちろん、指導者や保護者にも求められることです。

 

さらに2つ目は、リスクを取らない判断をしやすい環境になっているか。

実際は脳の中で何が起こっているか、明確にピッチの上で知ることはできません。

評価の結果、症状が明確でなくグレーだった場合、危険だから念のためプレーさせないというリスクを取らない判断をすることが最善です。

グレーということですから、脳に何かしら異常が起こっているかもしれないし、ひょっとしたらなんともないかもしれません。

でもそれはその場ではだれにもわかりません。

だからリスクを取らない、ということが最善になるのです。

 

想像してみてください。

受傷したのがチームの中心選手だったとして、それが大事な試合だったとして、そんな状態の選手をプレー中止させることを許す空気ができているのか。

いかがでしょう?

 

≪まとめ≫

本当に脳に悪影響があるのであれば、ヘディングは禁止すべきだとは思います。

ですのでそれに関するさらなる研究が待たれるところです。

その一方で、アメリカの判決の発端が「発見と治療」にあるのであれば、禁止することがそもそも解決策になるのでしょうか?

残念ながら訴訟の詳細を入手できなかったため、これ以上を語るのは難しいのですが「訴訟か、危険なんだな。じゃあ禁止!禁止しとけばオッケー」とこの判決に引っ張られすぎるのも【?】ですね。

むしろ現場での脳震盪の判断や対応についての普及が滞ってしまう危険性すら感じます。

ヘディングをしなかったとしても、脳震盪が起きる可能性は十分にあります。転倒とか肘が当たるとか。

 

予防について考える一方で、いま早急にすべきはトレーナー等の医療面の充実と、現場、特に指導者の方々や保護者の方々の脳震盪に対する理解の浸透を進めていくことです。

脳震盪そのものはまだまだ怪我として認識されるようになってから日が浅いですが、それでもここまで様々な研究や取り組みが行われてきました。

それだけ医療界では軽視できないものだと捉えられている、ということです。

現場が「脳震盪は危ない」と認識を深めることで、より現場での対応や議論、研究が進められることを期待しています。

 

 

Yasu

FOOTBALL, PHYSIO, 怪我

Posted by Yasu


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