前十字靭帯損傷後の新たなる可能性。切れた靭帯を修復させるための手術

2017年11月22日

knee injury

クレジットphoto credit: Early injury for Worcester – Ezra Taylor via photopin (license)

 

前十字靭帯損傷といえば、膝のケガの中でも最も重いものの一つです。主にスポーツシーンで発生し、「膝が内側に入った状態」に強制的になってしまうことで、損傷してしまいます。当然サッカーというスポーツにおいても、その発生は決して珍しくはありません。かつてヨーロッパでの前十字靭帯損傷の発生率とスポーツ現場への復帰についてまとめられたレポートがあります。

UEFA統計データから見る、膝前十字靭帯損傷 | フットボールノコトバ。
先日のEURO決勝でもクリスチアーノ・ロナウド選手が相手選手との接触によって膝を痛め、途中交代を余儀なくされました。試合後の診察によると、前十字靭帯の部分断裂だったということです。大舞台でスター選手が怪我で離脱というのは、2014年W杯のブラジル代表ネイマール選手を思い起こさせます。ロナウド選手がベンチにバツサインを出した時はなんとも見ていてツラい気持ちになりましたが、ポルトガルが見事優勝を収めましたので、彼も少しは気持ちが晴れていてくれればなと思います。

しかし、部分断裂とはいえ前十字靭帯の損傷はサッカー選手にとって非常にキャリアに影響を及ぼす怪我です。最近の研究では手術後2年間は組織の回復プロセスが進行中であり、理論上手術後6か月で復帰、実際は手術後9か月前後で復帰するパターンが多いけれども、完璧に治り切っているわけではないという報告がなされています。これについては今後、別の記事でも書きます。

はたしてその現実に立ち向かうがごとく、近年新しい前十字靭帯の手術テクニックが用いられるようになってきました。クリスチアーノ・ロナウド選手がこのオペを選択するかどうか定かではありませんが、今後のキャリアを考えた場合、有り得ると言っていいでしょう。

 

≪これまでの技術≫

これまで前十字靭帯の再建術においては、傷ついた前十字靭帯を一度完全に取り除き、膝の腱やハムストリングスの腱の一部を前十字靭帯の代わりに膝の中に移植するという手法が一般的でした。実際のところは術後の経過の良さからハムストリングスを用いるパターンのほうが多くなっています。

この腱は自分のものを移植するのですが、いくら自分のものとはいえ元々別の組織だったものを前十字靭帯の代わりに移植して『じゃ、あとはよろしく!』とはならないのが難しいところです。そもそも人間の身体には『固有感覚受容器』というものがあり、脳に身体の姿勢もろもろをフィードバックする機能が備わっています。靭帯においてもそれは例外ではなく、手術後のリハビリでは慎重に、膝のコントロールを再学習していく必要があるわけです。結果、復帰時期はトップスポーツ選手では約9か月から12か月かかるとされています。

 

≪傷ついた靭帯をそのまま残して修復を促す≫

そこで今回の新技術です。

『取り除くことで機能の再獲得に時間がかかるなら、いっそそのまま残しといて再生させよう!』ということで、傷ついた靭帯をサポートして再生させる技術が発明されました。

それが『Ligamys』です。そもそもこれまでは、傷ついた前十字靭帯はその本来のポジションを保っていられないため、治癒が期待できず、靭帯を取り除いて別の代用品を移植しなければいけなかったのですが、Ligamysは損傷した靭帯を支え正しいポジションを保つようにし、さらに靭帯が修復するまではその役割を補うことができるのです。本来の靭帯を修復させるのですから、これは保存療法の延長だと捉えられています。

詳しくは以下の動画をどうぞ。

 

この技術が考え出されたスイスでは2011年から2014年の間に278例のLigamysを用いた手術が用いられており、96%が元の競技レベルに復帰できたとのことです。本来の靭帯がそのまま修復されるので、日常生活、および仕事への復帰は約3週で可能ということです。これは早い。そして気になるスポーツへの復帰ですが、理論上は約10週でジョギングやスポーツ関連のリハビリが開始でき、約5カ月ごろからスポーツ開始が可能とされています。

また、とある症例報告では2014年から2015年までの間に30例の手術が行われ、うち29例が4か月以内に元の競技レベルに戻ったとされています。さらなる術後の追跡調査が必要なのは言うまでもないですが、現時点でこの技術はスポーツ医学の世界ではかなり大きな可能性を秘めていると言えます。

 

≪もちろん、制限もある≫

なんとも無敵な手術方法が出てきたもんだと思われるかもしれませんが、実はそう何もかも上手くはいかないようです。

この技術にも以下の制限があります。

①前十字靭帯損傷後21日以内が適応であるという事、

②過去に前十字靭帯を損傷した経験がない事、

③成長期を過ぎていること、

という3つの鉄の掟があるようです。

 

≪まとめ≫

ということで、前十字靭帯の手術がすべてこのLigamysに置き換わってしまうということはないと思いますが、スポーツ選手のキャリアを守るうえで大きな役割を果たしてくれそうです。一方で、これまでの技術を適応とする患者さんもまた依然として現れてくるでしょうし、リハビリが必要なことに変わりはありません。僕たちのようなリハビリを担当する職の責任と役割もまた大きく、今後その知識・技術をブラッシュアップさせていくことは言うまでもなく不可欠ですね。


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